プロジェクトの背景と概要
1.はじめに
建築物の構造設計においては、災害時における人命の安全は最も重要な目標であり、建築基準法にもそのために最低限遵守すべき規定が設けられている。建築基準法では、地震に対しては、希に発生する地震(中小地震)に対する機能確保と極希に発生する地震(大地震)に対する安全性の確保が要求されている。極希に発生する地震後の建築物の機能確保や損傷制御については要求されていないが、それは憲法で定める「財産の自由の精神に則り所有者が(法律の要求を下回らない範囲で)適切に設定する」こととなっている。
しかしながら、一般にユーザを含む所有者は建築物の地震後の機能性を判断するに十分な情報を持ち合わせていないため、そのような観点からの建築物の性能に対する要求はこれまではあまり見られなかった。すなわち、建築物の発注者たる所有者が、このような観点で建築物の性能を要求することは極めて少なかった。その結果、過去の地震被害において倒壊は免れ人命は確保されたが、建築物の損傷が大きいために、長期間にわたって経済活動への支障や莫大な損失が生じるケースや、生活困窮(住に関する不便や精神的な苦痛)を強いられるような事態が問題視された。そのため、構造設計において、「建築物の機能を如何に維持するか」、もしくは、「低下した機能を如何に迅速に回復させるか」に関する検討の必要性が認識されるようになってきた。
上記のような問題の解決を最終的な目標とし、そのために必要な研究の第一歩として(独)建築研究所は研究課題「建築構造物の災害後の機能維持/早期回復を目指した構造性能評価システムの開発(平成19-21年度)」を実施した。
2.背景
1995年兵庫県南部地震1)では、多数の建築物が倒壊して多くの人命が失われただけでなく、さまざまな都市機能が麻痺するとともに避難所など自宅外での生活を長期間強いられる結果となった。これは、住宅の多くが構造部材や非構造部材、設備機器等に大きな損傷を受け、また、電気・ガス・水道などのインフラが損傷を受けた結果として、倒壊を免れた多くの建築物においても「すまい」としての機能が失われたためである。さらに、新耐震設計基準(1981年に改正された国の建築耐震基準)に基づいて設計された建築物において、法律の要求通りに倒壊を免れ人命は守ったが、構造躯体の損傷が激しくその修復費用が極めて高額であったことから、結局は取り壊され新しく建て直されるというケースも少なからず見られた(例えば写真2.1)。このような事例は、設計の時点で損傷制御や機能回復という観点を持つことの重要性を示している。
2001年芸予地震、2003年十勝沖地震、2005年宮城県南部の地震、2007年新潟県中越沖地震などの最近の地震では大規模空間天井の落下被害(写真2.22))、2005年の福岡県西方沖地震3)などでは事務所建築物の窓ガラスの被害がそれぞれ顕在化しており、これらの非構造部材の被害によっても人命への危険性が生じる上に被災後の建築物の使用も制限されるような事例が散見されている。さらに、福岡県西方沖地震では、集合住宅の柱・梁などの構造耐力上主要な部材は無被害であるが、非構造壁に大きなひび割れが発生し、また、ドアが変形して開閉不能となるような建具の被害等が生じ、住宅としての機能の喪失によって被災後の継続的な供用が困難になることが問題として指摘された(写真2.3)。このような被災後の機能喪失については、1978年宮城県沖地震や1995年兵庫県南部地震の際にも指摘されていたことではあるが、残念ながら適切な対応はなされてこなかった。
写真2.1 1995年兵庫県南部地震により損傷を受けた共同住宅
写真2.2 2007年新潟県中越沖地震による大規模天井の落下
写真2.3 2005年福岡県西方沖地震による共同住宅廊下側火構造壁およびドアの損傷
さらに、2004年新潟県中越地震では、半導体工場などの生産設備の多くが被害を受け、設備等の物理的損失だけでなくサプライチェーンにより製品を供給していた他企業への影響が甚大となる事態も見られた。この地震の経験から、2005年に内閣府中央防災会議が「事業継続ガイドライン第1版」4) を公表し、大地震による事業停止などの影響を最小限に留めるために、被災した建築物の復旧見通し等を考慮した事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan(図2.1))の策定を各企業に求めることとなった。BCPは、災害時においても企業の重要な業務を中断させず、もしくは、万一事業活動が中断しても目標とする復旧時間内に重要な機能を回復させることにより、重大な損失や企業評価の低下等を避けるための戦略である。このBCPに加え建築物の耐震化率を向上させることにより、想定される東海地震、東南海・南海地震、および首都直下地震などによる死者数と被害額をほぼ半減させることが期待されている。
なお、この後の2007年に発生した新潟県中越沖地震においても、自動車エンジンの部品製造工場が被災し、その部品を供給されていた国内の自動車生産ライン全てがストップするという事態が見られたことから、BCPの必要性がさらに認識されることとなった。
これらのように、近年発生した地震による建築物の被害事例を見ると、建築物の所有者やユーザが災害時に生じる状況を想定できておらず、そのため災害後の対策も立てられていない実態が浮き彫りとなってきた。
図2.1 事業継続計画の概念図
3.研究開発概要と検討体制
3.1 研究課題の概要
今後の構造設計においては、従来の構造躯体に対する耐震性能の評価だけでなく、地震発生後の機能維持や早期回復に関係する非構造部材や設備機器を含めた総合的な評価が必要になると考え、(独)建築研究所は、(社)日本建築構造技術者協会やNPO法人耐震総合安全機構などと共に、地震災害発生後の機能維持や早期回復が可能となるような建築構造物の設計・評価体系(以降、「新たな構造性評価システム」と呼ぶ)の構築を目的とする研究課題「建築構造物の災害後の機能維持/早期回復を目指した構造性能評価システムの開発」に2007年から取り組んだ。特にこの研究プロジェクトにおいては、図3.1の評価システムに示す、「新たな耐震設計の枠組み」、「データベース」、及び「性能表示資料の作成」に関する検討を行った。これらの検討に当たっては、構造部材だけでなく、非構造部材や設備機器、什器を評価対象として地震災害後におけるそれらの状況を予測し、そこから、建築物の機能がどの程度阻害され、業務や生活の困窮度がどの程度になるか(機能喪失のシナリオ)にも着目した。また、建築物の所有者やユーザーが重視する諸観点(企業の事業継続性や社会的責任、住宅の機能維持等)を積極的に耐震性能の評価尺度に導入できるよう、地震後の建築物の修復費用や時間(機能回復のシナリオ)も考慮した。さらに、評価者である構造設計者・技術者にとって実施可能な評価システムであることに加え、一般の方々が被災後の状態を理解できる構造性能の明快かつリアリティのある表示手段を提供することを念頭に置いて、工学的な検討ができるような共通の考え方と工学情報の整理を行い、また、建築物の所有者やユーザーに提供すべき有用な情報の伝達ツールやコンテンツについて検討を行った。中長期的には、建設省総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発(平成7-9年)」で構築された「性能指向型構造設計体系5)」の考え方をベースとして構造設計制度・指針類の構築等をめざす必要があるが、本研究課題での検討内容はその一部である耐震性能評価システムの開発に位置づけられる。
図3.1 本研究課題において検討した新たな構造性評価システムの全体像
3.2 機能継続性を考慮した構造設計の考え方
図3.2に、本研究課題で構築された「新たな構造性能評価システムのフロー」を示す。これは、機能の継続性や早期回復性評価の考え方に関する共通認識を得るために構築されたフローで、下記に示す(1)~(7)の項目からなる。
(1)応答値の推定
機能継続性の評価に用いる構造計算方法は、図3.2に示すように、時刻歴応答解析や限界耐力計算などの比較的精緻な方法によることとし、変位や加速度といった各層の応答値が工学量として得られるものとする。また、応答値が設計目標である限界値を上回らないことも既に検証済みであるものとする。ここまでは従来の構造設計の範囲である。
(2)損傷状態の推定
次に、層の応答値から、構造部材、非構造部材、設備、什器等の応答値を求め、さらにそれらの損傷状態を推定する。これを行うためには、各要素の応答値と損傷状態の関係に関するデータベースを構築しておく必要がある。
(3)機能喪失の推定
(2)の損傷状態から、建築物が当初から保有している機能のうち、どの機能にどの程度の支障を来すかの推定を行う。これを行うためには、各要素の損傷状態と建築物の機能との関係に関するデータベースを構築しておく必要がある。
ここまでが「機能喪失のシナリオ」であり、当該建築物にどのような損傷が生じ、それによってどの機能がどの程度喪失されるかを評価する。
(4)修復方法の設定
災害によって喪失すると推定された建築物の機能について、それを被災後にどの様な修復方法によって回復させるかの検討を行う。このためには、損傷の程度に応じた修復方法に関するデータベースが必要である。
(5)修復費用・修復時間の推定
喪失した機能を回復させるための修復に要する時間と費用の推定を行う。このためには、各修復方法について、損傷の程度に応じた時間と費用に関するデータベースが必要である。
以上の(4)~(5)の段階が、「機能回復のシナリオ」であり、機能回復のために必要な修復方法、修復費用、修復時間を評価する。
なお、(2)~(5)のデータベースの情報が揃うことにより、設計者は、所有者・ユーザが望まない事態が生じないよう、予め応答値を低減させる等の対処方法を考え、機能継続のための方策を提案できるようになる。
(6)ライフラインの情報
ライフラインについては、構造設計者が直接コントロールできる範疇ではないが、被災後の生活や事業に大きな影響を及ぼすことから、それらがどのような状況になるかについての情報を蓄積しておく必要がある。
(7)生活困窮度や事業困難度の評価
(3)の建築物機能への影響度の情報、(5)の修復費用や修復時間の情報、(7)のライフラインへの影響の情報などを考え合わせ、生活がどの程度困窮するか、また、事業の継続がどの程度困難となるかについての推定を行い、これを建築物のユーザが理解できるような言語で説明する。この段階が、「生活困窮度・事業困難度の評価」である。
本研究課題と同様な目的で性能に基づく耐震設計指針の作成を目指して検討を行っているATC-586)では、人的損失、建築物の損傷による直接的な経済損失、および、建築物の機能が止まることによる間接的な経済損失を評価するために、低下した建築物の機能が回復するまでに要する時間と費用を評価する方法について検討が行われている。ちなみにATC-58では、これらの評価指標を3D (=Death(人的安全性)、Dollar(修復費用)、Downtime(修復時間))と称している。
しかしながら、図3.2に示すように、機能回復に要する時間と費用は生活困窮や事業困難を考えるために必要な一部の情報ではあるが、必ずしも充分な情報とは言えず、これのみでは人々が具体の対策を施す動機付けになるとは考え難い。重要なことは、建築物のユーザが被害のシナリオを認識し、どの様な状況になるかを理解することである。そうしないと、漠然とした要求は漠然としたままで明確な要求とはならず、依然として具現化しない。このために、図3.2のように「機能喪失のシナリオ」、「機能回復のシナリオ」、および、「生活困窮・事業困難のシナリオ」を明らかにする必要があり、それらの状況説明によって初めて生活がどのくらい困窮するか、事業の継続がどのくらい困難となるかの判断ができるものと考えられる。この点が、新たな構造性評価システムの最も大きな特徴である。
図3.2 新たな構造性能評価システムフロー
図3.3に建築物の荷重―変形関係と、安全性および機能継続性が対象とする範囲の関係を示す。安全性は軸力支持能力を喪失するといった復元力特性上における終局のある点として示されるが、機能継続性は、損傷が始まる点(損傷限界点)から安全性を喪失する点(安全限界点)までの極めて広い範囲(図3.3中の楕円の範囲)が対象となる。すなわち、機能継続性評価が対象とする範囲は、安全性評価が対象とする範囲よりもはるかに広いが、これまで長年「構造安全性」に関して実施されてきた研究に比べると、「機能継続性」に関して得られている技術的知見の蓄積は少ない。このことから、今後機能の維持や早期回復性に関する研究や検討を継続し、この分野の技術の向上に努めていく必要がある。
英語では、機能回復性の高い建築物のことを、Structural Resilient Buildingと呼ぶ。Resilientとは「立ち直りの早い」という意味であり、災害後の早期回復性を表すには最も適した用語である。このResilientが評価されると、人々が、機能継続性・回復性に関わるユーザの要求と建築物の保有性能とが合致しているかどうかを確かめられるようになる。
図3.3 安全性と機能継続性の関係
3.3 検討体制
検討体制は全体委員会の下に、サブテーマ1(新たな構造性能評価システムフローの構築と試評価の実施)、サブテーマ2(新たな構造性能評価システムに資するデータベースの構築)、サブテーマ3(新たな構造性能評価システムで用いる構造性能表示手法の検討)および実験WG(データベースに必要なデータの収集のための実大実験の計画・実施)を構成した。以下に委員会構成と委員リストを示す。なお、所属は平成21年3月現在のものである。
全体委員会(建築研究所が設置した委員会)
委員長:東京大学 塩原等
委員 :慶應義塾大学 坂本功
委員 :東京理科大学 衣笠秀行
委員 :日本女子大学 石川孝重
委員 :文化女子大学 久木章江
委員 :芝浦工業大学 平山昌宏
委員 :(株)前川建築設計事務所 中田準一
委員 :(株)日建設計 浅野美次
委員 :(財)日本建築センター 大越俊男
委員 :(株)日本ERI 深田良雄
委員 :日本建築設備診断機構 安孫子義彦
委員 :国土交通省官庁営繕部設備環境課 伊藤誠恭
委員 :(財)日本住宅・木造技術センター 岡田恒
委員 :国土交通省国土技術政策総合研究所 西山功
幹事 :(独)建築研究所 飯場正紀 (構造研究グループ)
幹事 :(独)建築研究所 福山洋 (構造研究グループ)
幹事 :(独)建築研究所 森田高市 (構造研究グループ)
幹事 :(独)建築研究所 岩田善裕 (構造研究グループ)
幹事 :(独)建築研究所 喜々津仁密(構造研究グループ)
幹事 :(独)建築研究所 田尻清太郎(構造研究グループ)
幹事 :(独)建築研究所 斉藤大樹 (国際地震工学センター)
幹事 :(独)建築研究所 向井智久 (国際地震工学センター)
幹事 :(独)建築研究所 脇山善夫 (建築生産研究グループ)
幹事 :(独)建築研究所 山海敏弘 (環境研究グループ)
オブザーバ (株)日本設計 安達和男
オブザーバ 清水建設(株)技術研究所 金子美香
オブザーバ 応用アール・エム・エス(株) 兼森孝
オブザーバ 国士舘大学 木内俊明
オブザーバ 小林構造研究室小林紳也
オブザーバ (有)タナカ建築設備 田中孝
オブザーバ NPO法人耐震総合安全機構 仲田潔
オブザーバ (株)日建設計VM室 松浦孝
オブザーバ (有)共同設計・五月社 三木哲
オブザーバ (株)エヌ・ワイ・ケイ 水上邦夫
オブザーバ 宮城設計一級建築士事務所 宮城秋治
オブザーバ 矢野建築コンサルタンツ 矢野克巳
オブザーバ NPO法人耐震総合安全機構 山田周平
サブテーマ1 機能継続性を考慮した構造性能評価システムフローの構築と試評価の実施
((社)日本建築構造技術者協会(以降JSCA)に設置された委員会)
主査 :JSCA 深田良雄
委員 :JSCA 大越俊男
委員 :JSCA 稲田達夫
委員 :JSCA 溜正俊
委員 :JSCA 森伸之
委員 :JSCA 田村和夫
委員 :JSCA 服部敦志
委員 :JSCA 後閑章吉
オブザーバ :(独)建築研究所 森田高市
オブザーバ :(独)建築研究所 福山洋
オブザーバ :(独)建築研究所 向井智久
オブザーバ :(独)建築研究所 岩田善裕
オブザーバ :(独)建築研究所 田尻清太郎
サブテーマ2 機能継続性を考慮した構造性能評価システムに資するデータベースの構築
(NPO法人耐震総合安全機構(以降、JASO)に設置された委員会)
主査 :東京大学 塩原等
委員 :東京理科大学 衣笠秀行
委員 :JASO 中田準一
委員 :JASO 浅野美次
委員 :JASO 安達和男
委員 :JASO 岡部則之
委員 :JASO 瀧川公策
委員 :JASO 平山昌宏
委員 :JASO 田中孝
委員 :JASO 金子美香
委員 :JASO 兼森孝
委員 :JASO 矢野克巳
委員 :JASO 木内俊明
委員 :JASO 小林紳也
委員 :JASO 松浦孝
オブザーバ :(独)建築研究所 向井智久
オブザーバ :(独)建築研究所 福山洋
オブザーバ :(独)建築研究所 森田高市
オブザーバ :(独)建築研究所 岩田善裕
オブザーバ :(独)建築研究所 田尻清太郎
オブザーバ :(独)建築研究所 脇山善夫
サブテーマ3 機能継続性を考慮した構造性能評価システムで用いる構造性能表示手法の検討(建築研究所が設置した委員会)
主査 :日本女子大学 石川孝重
委員 :文化女子大学 久木章江
委員 :日本女子大学 平田京子
委員 :武蔵野大学 伊村則子
委員 :(株)日建設計(医療施設近代化センター)岩堀幸司
主幹事:(独)建築研究所 斉藤大樹
幹事 :(独)建築研究所 福山洋
幹事 :(独)建築研究所 森田高市
幹事 :(独)建築研究所 喜々津仁密
幹事 :(独)建築研究所 向井智久
幹事 :(独)建築研究所 岩田善裕
幹事 :(独)建築研究所 田尻清太郎
幹事 :(独)建築研究所 中川貴文
オブザーバ :矢野建築コンサルタンツ 矢野克巳
オブザーバ :JASO 山田周平
オブザーバ :JASO 仲田潔
オブザーバ :(有)共同設計・五月社 三木哲
オブザーバ :(株)エヌ・ワイ・ケイ 水上邦夫
オブザーバ :宮城設計一級建築士事務所 宮城秋治
実験WG データベースに必要なデータの収集のための実大実験の計画・実施(建築研究所が設置した委員会)
主査 :東北大学 前田匡樹
委員 :東京理科大学 衣笠秀行
委員 :芝浦工業大学 隈澤文俊
委員 :芝浦工業大学 平山昌宏
委員 :東京大学 高橋典之
委員 :(株)日建ハウジングシステム 浅野美次
委員 :(株)日本設計 安達和男
主幹事:(独)建築研究所 加藤博人
幹事 :(独)建築研究所 福山洋
幹事 :(独)建築研究所 森田高市
幹事 :(独)建築研究所 向井智久
幹事 :(独)建築研究所 岩田善裕
幹事 :(独)建築研究所 田尻清太郎
幹事 :(独)建築研究所 脇山善夫
幹事 :(独)建築研究所 斉藤大樹
幹事 :(独)建築研究所 山海敏弘
4.研究開発の成果
得られた研究成果を以下に示す。
(1)必要となるデータベースの構築:評価システムを使用する際に必要な3種類のデータベースフォーマット(図4.1参照)を構築し,どういった種類のデータが必要であるかを明示した。また,このデータの具体的な収集方法を示すための実大実験を実施した。
図4.1 各種データベースの構築例(RC造外壁の場合)と実大実験の様子
(2)耐震設計の枠組み構築:共同住宅・病院・事務所ビルを対象に,(1)で示したデータベースを用いた修復費用や時間に関する試評価を実施し(図4.2参照),構造設計者が実務上活用できる有用なシステムであることを示した。
図4.2 試評価によって得られた算定結果の一例(病院建築物の結果)
(3)ユーザにとって分かりやすい耐震性能表示手法の構築:(2)で実施した検討から得られる地震時における建築物の損傷データを用いて,地震直後から避難時に至るまでに起こりうるシナリオを時系列で作成し(図4.3参照),構造設計者がユーザに対して耐震性能を説明するための有用な表現手段を提案した。
図4.3 地震後の共同住宅の被災シナリオの表示例
5.今後の展開
今回の検討結果によって,本評価システムの有用性を明らかにすることができた。今後は,今回構築したデータベースをより広く整備することが,社会から求められるニーズに応える耐震性能の高い建築物の実現のための第二段階と考えられる。そのためにより多岐に渡るデータ整備や,本評価システムが社会でより広く使用されるための仕組みについて検討していく予定である。
参考文献
1)建築研究所:兵庫県南部地震被害調査,1995.1
2)建築研究所:平成19年(2007年)新潟県中越沖地震建築物被害調査報告,2007.10
3)日本建築学会:2005年福岡県西方沖地震災害調査報告,2005.9
4)内閣府防災担当 企業評価・業務継続ワーキンググループ:事業継続ガイドライン第一版-わが国企業の減災と災害対応の向上のために-,2005.8
5)建築研究振興協会:鉄筋コンクリート構造建築物の性能評価ガイドライン,2000.7
6)ATC-58,Guidelines for Seismic Performance Assessment of Buildings,50% Complete Draft, (http://www.atcouncil.org/pdfs/ATC-58-50percentDraft.pdf),ATC,2009.4